スクウェアはなぜゼノギアスチームを手放したのか——FF7の成功が生んだ逆説

FF7の成功からゼノギアス~ゼノブレイドへ コンテンツ文化

ゼノギアスは「失敗作」だったのか

1998年に発売されたゼノギアスの国内売上は約89万本。今この数字を見て「失敗」と感じる人はほとんどいないだろう。それなりに骨太なJRPGとしては十分すぎる数字だ。

しかし当時のスクウェア社内では、この89万本が続編を作るうえでの障壁になった。社内の稟議基準が「国内売上100万本」だったとされており、わずかに届かなかったゼノギアスは続編を認められなかった。

なぜそんな基準になったのか。答えは単純で、FF7が売れすぎたからだ。

FF7は国内だけで約320万本、全世界で1000万本を超えるヒット作になった。その数字が社内の「成功」の定義を塗り替えた結果、89万本という数字が相対的に小さく見えるようになった。FF7以前であれば十分な成果として評価されていたはずのものが、FF7以後には物足りない数字として処理されるようになった。

物差しが狂った、というより、物差しそのものが変わってしまったのだ。

スクウェアの中で何が起きていたか

ゼノシリーズの変遷

ゼノギアスの開発チームは若かった。高橋哲哉を中心とした新しいスタッフで構成され、3D技術を学びながら制作した作品だ。その開発過程でスケジュールが延び、スクウェアからディスク1で終わらせる案が提示されたこともあったという。高橋自身が後にインタビューで認めている。結局ディスク2を作る形でリリースされたが、ディスク2の演出が紙芝居形式になったことは今でも語り草だ。

これは単なる開発の問題ではない。当時のスクウェアは、FF7の爆発的な成功によって組織の規模が急拡大しており、経営と現場の分離が進んでいた。坂口博信や河津秋敏のようなクリエイター出身者が経営にも関わる体制は、少人数だったFF6以前の時代には強みとして機能していた。現場の感覚で判断できる経営者がいることは、制約の中でクリエイティブな賭けをするには理想的な環境だった。

しかしFF7以降、会社は急激に「大企業」になっていく。数百人規模の組織運営、株主への説明責任、大型プロジェクトの並行管理。これらはクリエイターとしての能力とは別の専門性を要求する。前例のない規模の成功に、組織としての成熟が追いつかなかった。

その混乱の中で、ゼノギアスチームは「続編を作りたい」という希望を経営陣に打診した。そして断られた。

手放した結果、何が起きたか

杉浦博英・高橋哲哉・本根康之らは、ゼノギアスの続編制作の有無など経営方針の違いからスクウェアを退社し、1999年、ナムコの子会社としてモノリスソフトを設立した。

ここで重要な事実がある。ゼノギアスの版権はスクウェアに残ったままだ。チームは出ていったが、彼らが作った世界観・設定・年表はスクウェアの資産として留まった。高橋たちは「ゼノ」という名前だけを持って、世界を変えて再出発するしかなかった。

これがゼノサーガという形になる。ゼノギアスと地続きのような世界観を持ちながら、版権上は別作品として作らなければならない。その制約の中でゼノサーガシリーズは迷走した。
エピソード3部が世に出たものの短縮され、完結まで届かない部分が生じた。ナムコとの社風の違いも影響したとされる。

モノリスソフトの社長・杉浦は後のインタビューで、「ナムコ創業者の中村雅哉さんが引退され、新しい空気が入って、中村さんの偉大なる思想が変化したと感じた」と語っている。支えてくれた人がいなくなり、環境が変わった。 Monolithsoft

転機は2007年だった。バンダイナムコが保有株式の80%を任天堂に売却し、モノリスソフトは任天堂の子会社となった。

ゼノスタッフたちの苦悩と栄光

そして2010年、ゼノブレイドが発売される。

ゼノサーガ時代の縛りがない、版権問題のない、完全オリジナルのRPG。任天堂という安定した親会社のもと、チームは本来持っていた力を発揮できる環境を得た。ゼノブレイドはシリーズ化され、今や任天堂の主要IPのひとつになっている。杉浦自身が「ゼノブレイドでユーザーの評価を得られて、やっと『ここからか』と感じた」と語っている。 Monolithsoft

結局、誰が正しかったのか

スクウェアの判断は、当時の社内論理としては理解できる。FF7基準の物差し、100万本の稟議ライン、組織の混乱。間違いを犯した悪意ある経営者の話ではなく、前例のない成功に追いつけなかった組織の話だ。

ただ結果だけを見れば、スクウェアはゼノギアスの版権を持ったまま何も作れていない。チームは出ていき、任天堂のもとでゼノブレイドという別の傑作を生んだ。

スクウェアから出たことが正解だったのか。それとも出ざるを得なかっただけで、本当はゼノギアスの続きを作りたかったのか。今となっては、その二つを区別する方法がない。

ゼノギアスの版権は今もスクエニが所有している。


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